下記の絵はご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか?
歌川広重の『東海道五拾三次 日本橋・朝之景』。
東海道の起点、日本橋の朝の風景を描き出した名画ですね。
(ちょっと汚れが目立ちますが……)
ちなみに「歌川広重? 安藤広重じゃなかったっけ?」とか
思った方はいませんか?
今は教科書などでも「歌川広重」になっています。
(詳しく説明していると、どんどん話がそれてしまいそうなので、
詳細は拙著『裏も表もわかる日本史<江戸時代編>』をどうぞ!)
さてさて、上記の絵ですが……
手前右側に、なにやら獣のようなものが見えるのがわかりますか?

アップにすると

こんな感じです。
犬のお尻ですね。
なぜ、広重は、こんなところに犬を描いたのでしょうか?
日本橋には魚河岸があったから、魚のおこぼれをもらおうと集まってくる犬を描いたのでは?
と、思う人もいるかもしれません。
しかし、そうであれば、左側の天秤棒を担いだ人のそばに、しかもお尻ではなくて顔を書いたほうがよかったのではないでしょうか?
ではなぜ、広重はこんなところに犬の尻を書いたのでしょう?
正解は……ちょっとだけ恐ろしい話なのですが……
実はこの、手前右側の木戸で隠れている部分、(犬が顔を向けている部分)には、江戸時代ならではのちょっと恐ろしいものがあったのです。

それは…… 罪人のさらし場でした。
姦通罪や心中未遂などを犯した人をさらしておく場なのですね。
もっとも重い刑とされる「のこぎり挽き」もこの地で行なわれました。
罪人を首だけ出して埋め、通行人にのこぎりをひかせて少しずつ首を斬るという、実に恐ろしい刑です。2日経って、生きていたら今度は磔(はりつけ)にされるのだとか……
となると、例の広重の犬は…… 罪人の血の臭いでも嗅いで集まってきたのかもしれません。
ここが罪人の「さらし場」であることを、犬の尻を描くことで暗示したわけですね。
この絵の中には、大名行列や魚河岸から出てくる行商人だけではない、別の江戸名所が、暗示されているわけです。

これらの謎をまとめました拙著『浮世絵の謎』、好評発売中です!
【関連する記事】